sixtyseventh.diary

とりとめはない

2023年、よかった本(2023年ふりかえり第三号)

私の思うよかった本とは、読み終わったあと本棚に入れるまで本に対して触れ合えてよかったなぁと思い続けられる本。その中でも特に良かったものを広めたい。なお、私のコメントは必要に応じて出版社のWebサイトなどを参照しつつ書いています。

はたらく・世界を楽しむ

私の仕事に対する考え方を彩ってくれそうな本3冊。

給料はあなたの価値なのか――賃金と経済にまつわる神話を解く

人事評価制度に伴う昇給制度や、中途採用者のオファー賃金、とにかく給料に関して思わないことがない人はいないのではないか。給料というものが情報の面で不均衡であること──私は私がいくらもらっているが分かるが、原則として私は誰がいくらもらっているかが分からない──を指摘した上で、給料を決定する要因に踏み込んでいる。給料を眺め、「これが自分の価値なのだろうか(いや、違う気がする)」と考えたことのある人におすすめ。

共に変容するファシリテーション――5つの在り方で場を見極め、10の行動で流れを促す

「場」の運営に関心を持っているので、迷わず読んだ。ファシリテーターは、結論を急ぎ形成するのではなく、共に進み続けるための水先案内人として働くのである。ここではもちろん、特効薬のようなファシリテーションのテンプレートはない(そういうものは紹介されない)。共に前進するとはどういうことか、そしてそこではどのような「奇跡」が現れるのか、を説いている。効率化・生産性とやかましい世界でプロセスに注目している人におすすめ。

平和をつくる方法 ふつうの人たちのすごい戦略

平和とは、と探索する人文書ではなく、平和をつくるということは、と散策する書籍。平和な状態が「自分たちにとって」どういう状態かを、当事者がハンドリングできるよう介入する、シンプルで困難な実践書。「ピース・インク」が悪ではない。ただ、「真っ白な紙に残る一つのシミ」に囚われない見方もあるのではないか。大きな「平和」だけでなく、当事者がハンドリング出来たほうがよい物事に介入していくときに有効なガイド。

わかる・世界の眺め方を手に入れる

私の世界の解釈を揺らしてくれそうな本7冊。

自転車と女たちの世紀──革命は車輪に乗って

読んでいて気持ちのいいフェミニズムの本。女性を解放したツールのうちの一つとしての「自転車」を取り扱う。私はほとんど毎日自転車に乗って街を移動する、そのときに感じる「私のほんらいのドライビング」の爽快感は、きっと世界で初めて自転車に乗った女性にもあったのだろう。街を移動するだけでなく、世界旅行に出る女、スピードを求める女、いろんな女がいる。あらゆるツールは、男女どちらかだけのためにあるのではもったいない。

AIと白人至上主義

日本ではしばしば名誉白人のように振る舞っている人を見かける。構造的にAIが白人至上主義を取り入れている(取り入れざるを得ない)ことに対して指摘するものは欧米の論説で時折見かけるのもあり読んだ本。AIがいい悪いという議論以前に、そもそもAIというものは何か、AIはどのように働くかということの妥当性を社会的に合意しないまま何となく持て囃すのは、いわゆる革命にも繋がらんなと思った。

海よ光れ!: 3・11被災者を励ました学校新聞

岩手県大沢小学校の2011年にあったことを書いた本。SAPIXの読書感想文コンクールの対象作品として選ばれていたので読んだのだが、これがなかなか良かった。主体的にあることとはどういうことか、子供のとりくみと、支援する教員のケースを通して考えさせられる。当然、これも「うまくいくテンプレート」ではないのだが、こうした実践があったことが、子供の勇気に繋がったらいいな。

テロルの昭和史

二・二六事件に至るまでの社会で起きたテロル。社会不穏を起こす暴力事件に妙な関心があり、この新書も読んでいて面白かった。現代への警鐘はいささか言い過ぎのような気がするが、テロリズムはどんな幻影を{信奉し/敵視し}起こりうるのか、を日本の昭和史という観点から考えるのはこれからの現代社会においても有効だろう。

ユダヤイスラエルのあいだ: 民族/国民のアポリア

2023年10月から続いているパレスチナでの衝突(私個人としては衝突ではなくもはや一方的な弾圧だと思うが)について、「なんか難しそうだから判断しない」という日和見をただすことが出来た一冊。妥当な結論を導くには一冊では足りないという向きもあろうが、私は私で様々な意味でリソースが限られている。多くの思想家がどのように現実政治と思想に折り合いをつけたのか、あるいはつけなかったのか。まさにアポリアを「乗りこなす」本。

謝罪論 謝るとは何をすることなのか

私はネットの「その謝罪では謝罪にならない」というような論調が得意でない(共感することもあるが)。本書は、謝罪されるという観点ではなく、まず、謝罪するという観点で分析を試みている。ここには結局のところ「謝罪は、Xである」という明確な定義付けはなされない。なぜなされないかは、もう読んでくださいとしか言い得ないのだが。オケージョンの問題としての謝罪の様相を再確認できる。

近代美学入門

美学って結局のところ何なのか、分かっていなかったが、素晴らしい緒となる一冊。当然ながら、善と同様、美も時代に応じて議論が変わっていく。切り口が増えたり消えたりする。美はどこにあるのか? 近代西洋が美を記述するためにたたかった軌跡を入門者にもわかりやすくガイドしてくれる。さらに気になる人に向けたブックガイドも嬉しい。私はアジアにおける美についても知りたくなりました。

没入・そこにある世界を愛する

そして解釈され・彩られたいきものが踊り狂う本8冊。

完全犯罪の恋

情けなさ。新宿。期待。

ぼくらが漁師だったころ

力。ナイジェリア。Boys.

小隊

事務化された戦争。死。空虚な階級。

嫌いなら呼ぶなよ

関係しているようで関係していない人間。表情。都市。

タローマンなんだこれは入門

でたらめ。ディティール。巨人。

腹を空かせた勇者ども

疾走。陽キャ。前。

波〔新訳版〕

四季。失われる。街路。

神と黒蟹県

暮らし。そこにある。根は頑固。