sixtyseventh.diary

とりとめはない

とある架空の中学受験予備校に関する疑念

私は色々なことに憤るタイプで、一過性の憤りであればまだ安らかなのだが、失望を伴うタイプの憤りは一晩寝てもなお収まらないのだ。架空の中学受験予備校Xについての文句を一通り整理し、書き残しておこうと思う。私は極力この塾に子供を通わせ続けたくない。彼らの言う売上高や、合格者数という数字に盛り込まれたくないな、と思うのだ。

(1)映像コースの質の低さについて

これは以前より燻っていた件である。思い出しムカつきに近いかもしれない。配信されている動画は解説書を丸読みするより、よほど足りない説明であり、その説明にいたる──解を導くための考え方のヒントもなかった。これでいて、恐らく、Xに通う児童の半分よりは成績がよいのだからたまらない。入塾手続きの際に漏れ聞こえる熱血漢の声、これはあくまで児童を管理というより統制するためのものでしかなく、果たして、児童が問題を解くこと自体の楽しみを教えられているのかというのは、各種テスト後の解説授業をもってしても謎である。はっきり言って、私の考えでは、Xは「分かったものが正解している」楽しみを繰り返しShow offすることが関の山であり、困難な問に突き当たった際の姿勢までは教えられていないような気がする。まぁそもそもそんなものをすべての中学受験予備校が授けられるかはかなり謎だが、私自身は問に正解すること自体にはさほどの価値が人生においてない、と思っている。試験の点数はあがることもあろうが、山をはってそれを当て続けないとどこかで詰むのだ。正解することや、偏差値があがることは、どだい、人生の幸福とは言えない。そういう哲学を、共有し得ないのではないか、と思っている。難関校が難しい入試問題を課すのは、正解する生徒がほしいのではなく、そういった入試問題と共鳴できる生徒がほしいのではないだろうか。正解のツールを無限に持っている児童より、よほど、今まで見たことのない山に対して、純粋に熱意を燃やせる児童を愛してほしい。そういう学校に、私は子供を預けたい。

(2)トップ校の受験者数について

Xは近年トップ校の合格実績を延ばしている。児童数自体について言えば、2019年からの4年間で全体で35.3%を延ばしており、堅調どころか飛躍と言っていいだろう。ただ、いわゆるトップ校の実績の増減比率でいうと、開成中学の合格者数は20.4%増、麻布中学は33.8%増、桜蔭中学は11.0%減、女子学院中学は25.0%増、雙葉中学は30.0%増(武蔵が果たして現在も男子御三家として評価されているかあまり自信がないので除いたが、14.0%増と、奮ってはいない)。いわゆる男女御三家の合格実績の増加率についてはその児童数自体の増加率に比して必ずしも順調とは言えない。もちろん、少子化かつ2月1日受験校のばらつきの可能性も考慮しうるが、2019年も2023年もサンデーショックではない上で、麻布の出願者数11.5%減、女子学院は11.9%減を除くと他4校は出願者数を延ばしている。なお、いずれの学校も募集人員数に変更はない。

あくまでこのファクトから言えることは、Xが2019年から2023年にかけて男女御三家中学の合格者数を延ばしていること自体は誤りとは言えないが(桜蔭のみ減らしている)、必ずしも、その合格割合について、児童数の増加に比して延ばしていないということだ。むしろ、児童数の増加率に比べていずれの中学についてもやや苦戦していると見ることが出来、Xの中でのパイの奪い合いが苛烈になっているか、あるいは「裾野を拡大している」にしかすぎない可能性もあるということ。なお、Xは今後の経営方針として個別指導校舎の増加を目指している──他中学受験予備校も飯のたねとしていると見る分野だが(あまりにマッチポンプがすぎるビジネスだ!)、恐らく、校舎内のトップ層の進度を早めて取りこぼした上で個別指導に投げ込むのではないか。

で、まぁ上記についてはムカついたから調べたのだが、説明会で割とドン引きしてしまったのは「開成の受験生、たくさん増えてます!」と責任者が自慢気に微笑んでいたことである。小学6年生と親御さんは、2月1日校を納得して決めているんだろうか。ワンチャン行けそうだったら無理やり受けさせるようなギャンブルをXは遊んでいないだろうか。必ずしも中学受験予備校の経営KPIは、人生の幸福を高めるためのKPI(そんな馬鹿げたものがあるとすれば)と一致しない。

(3)全国小学生統一テストについて

全国小学生統一テストの全国1位はXのP校舎であるということを自慢されたが、小学6年生の11月にそんなわけわからんテスト受けてる暇あるのかちょう謎と思った。Xに通う児童の多くが多く受けていたと見てあげたとしても、他の中学受験予備校の児童も、もっといえば最難関校と呼ばれる中学を受験する予定の児童も受験していたのか謎が多い。自分なら、Xに通っていたとしても、1位や2位のようなトロフィーでもなければ受けさせないだろうし(対策に時間を割きたい)、そのトロフィーがあろうと別に志望校への合格確度は一切高まらないので、消極的だろう。

何が言いたいかと言うと、受験者層の実体が判然としない模擬試験の1位や2位は、試験間際においてさほど当てにならないことくらい、ちょっと考えれば分かるだろうに、それを売りのように朗々と謳い上げる時点で、Xにおいて、この中学受験予備校に通わせる保護者はアホしかいないと思っているんじゃないのという舐められた気分があり、ムカついている。

(4)LTVを伸ばす施策が丸見えであることについて

小3からP校まで通わせるのが大変だという心配を抱える親御さんも安心してくれ、ちゃんと小3からはオンライン授業があるし、リアルタイムだから双方向で受講できるのでP校に居続けられるのだ、と案内していた。別の校舎から優秀な実績を出すP校に移動したいと言われても、お断りをする事例が珍しくない(故にやすやすと当校に戻れると思ってくれるな)、という話もついていた。

これを聞いて、私がまず思ったのは、P校に在籍している児童は必ずしもP校に常に通塾しているとは言い切れず、P校の在籍者数は殊の外肥大している──合格者数は増えても合格率はわからないんじゃないの? と思ったのだ(それで、(2)のようなことをちょっと調べてみた)。私がP校に子供を在籍させている理由は、単純に近いからであって、合格者数は割と関係ない。むしろ、中途半端に拡大されるよりは、そこそこ丁寧に見てもらったほうが助かる。なので、P校が拡大することは、別に私の願いには直結しないし、なんなら間接的にも関係ないような気がする。

で、だ。考えてみれば、他中学受験予備校と少し違うスタンスとして、小3の2月(中学受験界隈における新小4)から通わせれば足りる、なんてXはちっとも明言しないところだ。いわゆる最難関校への合格者数がよい中学受験予備校の説明を複数聞いたことがあるが、中学受験の対策としては小3の2月からで十分だと。その前に焦って通わせる必要は基本的にない(カリキュラムを見てもそう思う、というか、小3の2月以前からみっちり対策しないとならないケースに対してみっちり対策させるのはある種ナンセンスというような気がする)と言っている。ただしXはそうは言わない。

さらに、2024年4月から小3(2月からではない。一般的な学校歴としての小3)より本格的な最難関クラスを設置するとのこと。これは、青田買いに過ぎない。ただの推測だが、Xから他の中学受験予備校に流出する高成績群児童が一定の数いるので、囲い込もうとしているのではないか? いや、経営としては理があるが、最難関クラスに入れるためには小1・小2からXに通わせないとならない、という風潮になったら、保護者はただ焦るだけなんじゃないだろうか?

低学年から通わせている親に小3以降の継続を推すだけでなく、新小4から入る予定の層も取り込みLTVの伸長を狙っているのでは、と思わせるのに十分である。誠に素晴らしいビジネスで、株主は安心だろう。ただ、結果としての数字があったとしても、それは、ひょっとするとXの成果ではない。Out putとOutcomeはときに異なるし、教育産業というのは往々にしてそのズレを埋められない。なぜあの大手塾や予備校がなりを潜めてしまったのか? そこに、くれぐれも、ステークホルダーとなりうるものは注意しないとならない。ひとつ言えることは、合格者数が増えることそのものは、そのプロセス、つまり予備校が優れていることを証明しはしないのだ。予備校の質は数字だけで測れない。そのことをつくづく考えさせられる保護者説明会に出席した。